聞いてやれと言われ、聞かずにやれと言われる

会社で仕事をしていると、特に新入社員のころにいちばん戸惑う言葉がある。「聞いてからやれ」と「いちいち聞かずに自分でやれ」だ。
分からないから聞いたら「聞くな」と言われる。だから次はひとりで悩みながらあちこち確認して進めたら、今度は「ちゃんと聞いてからやれ」と言われる。特に、仕事の決定権も経験もない新入社員の立場では、本当に頭が痛い。いったい自分にどうしろというのか。
実は、この真逆の小言を両方とも避けるには、ある程度の基準がある。これは実際に上司たちがそう言いながら漏らしていた話の中にあった共通点だ。
まず「聞いてからやれ」に含まれている心理的な意味はこうだ。「これはお前が間違えると自分が責任を負うことだから、必ず自分の許可を取れ」。純粋に仕事そのものに集中して、「最後までやり切ること」だけを大事にしている人ほど、この点を見落としやすい。正直、この部分まで考えて働かなければいけないということ自体、今でもよく分からないし、頭も痛い。とはいえ、会社で働くというのは「仕事」だけで回っているわけではない。いろいろな利害が絡み合っていて、とくに人間関係が大きく影響する。
たとえば、あるメンバーがひとりで書類を処理して、そのまま外部へ送付したとしよう。普段どおり何も問題がなければ、会社もそこまで気にしないだろう。ところが、同じ書類を同じ方法で送ったのに、今回は事情が変わった。規程が改定されたのかもしれないし、取引先の要望が変わったのかもしれない。そうなると状況は一変する。
思わぬところで手続きが止まり、予定に支障が出て、最終的には上への報告につながる。報告せずに押し切れば、もっと大きな問題になる。そうして恐ろしい報告が始まると、誰もが予想するように「下への叱責」が始まる。それまで同じ書類にはまったく興味を示さなかった上司が、今回は手続きの一つひとつに「なんでだ!」と声を上げ、処理の仕方を責め、きちんと確認しなかった管理側の資質まで持ち出してくる。オフィスに戻ってきたその管理者は、結局担当者に言うのだ。「頼むからちゃんと聞いてからやれ」と。
逆に、「聞かずに自分でやれ」はまったく別の状況だ。同じ書類を作って送るとき、これまで問題もなく、関心も示してこなかったなら、「こんな簡単なことを、なぜ何度も聞くのか」と思われる。メンバーとしては手順に沿って確認を求めているだけなのに、上司の目にはただ面倒で、もどかしい行動にしか映らない。「こんなこともまだひとりで処理できないのか」と、心の中ではそう思っているはずだ。
別のパターンもある。その仕事が上司本人の成果と関係なく、もし失敗しても担当者だけが責任を取れば済むようなときだ。露骨に言えば、「自分を巻き込まずに、勝手にやってくれ」ということになる。そんな空気を感じたメンバーはかなり傷つくし、今にも燃え尽きてしまいそうな虚しさに陥る。
結局のところ、この二つの状況はどちらも上司の主観から来るものなので、マニュアルのように「こういうときはこう」と言い切れる正解はない。
それでも、あえて基準を置くなら、こんな考え方ができる。
一度やったことがあり、上司もあまり気にしていない業務なら、いつも通り進めたうえで、必ず「事後報告」を残そう。メールで送るなら上司をCCに入れておく。読まれるかどうかは別として、記録は残る。郵送やFAXなら、書類をスキャンしてPDFで残し、週報やメッセージで「完了しました」と一言添えれば十分だ。上司も返事をしなくてよく、報告を受けた形にはなるので、あとから問題にされにくい。
反対に、初めてやる仕事や、問題が起きた場合に責任の所在がはっきりしやすい業務なら、「途中報告」で安全策を取ろう。できるだけ情報を集めて下書きを作り、こんなふうに報告すればいい。
「下書きを作ってみたのですが、私の判断では難しい部分があるため、ご報告します。方向性をどう決めるのがよいでしょうか?」
上司の立場からすると、大きく手を入れなくても済むうえに、自分が全体をコントロールしている印象も受ける。こうして指示を受けながら進めた仕事については、「聞いてからやれ」という小言はかなり減る。
もちろん、この二つの方法がすべての場面で完璧というわけではない。結局は人を相手にする話なので、相手の性格によって反応は本当にさまざまだ。それでも、ある程度の安全策を作りながら、ときには聞き、ときには聞かずに一つずつ進めていけば、1か月、2か月と経つうちに、理不尽な叱責を受ける回数は目に見えて減っていくはずだ。
そうしてお互いに慣れ始めると、ある瞬間、上司は心の中でこう思う。
「こいつとは呼吸が合うな」
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